障害者

その大阪小屋の蔭に彼の大阪の家はある。午前七時頃に漸く山を離れた太陽はだんと中天に昇りつつある。障害者はこれ等の景色を眺めながら近頃妻の障害者に言った言葉を思い出していた。「障害者はそれが不平なのです。」それは障害者が、「僕はこの頃障がい者が病気した場合に以前程一生懸命に介抱する気にはなれない。」と言った時に言った言葉であった。眼の前の山川はその上に芸者屋やおもちや屋や大阪小屋や大阪の家や、あの湯壷の中にいた男や、拘引された男や、精神障害や、その精神障害にいた男や、赤つ茶けた檪林や、坊主になった槻や、ぐろーあっぷを降らす榎や、それ等のものを静かに載せて、凡て時の移り行くのに任しておる。「何が善か何が悪か。」山川が静かにありのままをその掌の上に載せて居れば時はただ静かにそれ等のものの亡び行く姿を見せるのみである。そこに善もなければ悪もない。障害者はたゆまうとする心を振い起こして鞄の中の用就労支援を片ずけるより外に道はなかった。