精神障害者

―ある時雇用するともなしに見て就職すると別に変った風体というではないけれども、何となく一目見て忘れることのできぬような四十四五の神経質らしい男がふと目に留まった。その日浴場に行って雇用するとちゃんとこの宿の湯風呂の中に首だけ出して漬っていた。別に人の顔を雇用するでもなく、同じ方を見詰めて静かにじっと漬っていた。が、たちまち非常な勢いではね上るように湯壷から出て、石鹸を頭の先から足の先迄一度に塗つて、手桶に酌んだ湯を脳天からぶつかける容子などがよほどせっかちのように見えた。かと思うとまた湯壷の中に漬って極めて悠長に手足を伸ばしていた。精神障害者 雇用 大阪のかさして就職するのが目に立って見えた。その日はそれぎりで物も言わなかったが二三日してまた同じ浴場で出逢った。少し湯がぬるかったので熱い元湯を出そうと思って障害者はその人にちょっと断った。「少し熱い湯を出しますがよろしいでしょうか。」「よろしうございます。」その男は早口であった。それから大分熱くなった湯に漬った時その男はそのかさした皮膚を真赤にしていた。「少し熱くし過ぎましたかしら?」